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・加藤眞三
(消化器内科)
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2005年07月06日 医療の新しい時代を迎えるための「医師憲章」

 米国およびヨーロッパの内科の4学会が集い討議し、医療のプロフェッショナリズムに関する憲章を、2002年「ランセット」および「アナルズ オブ インターナルメディシン」に発表した。この憲章は、これからの世界の医療の方向性を規定していくだろう重要なものであるが、日本ではまだ余り紹介されていない。私はこの憲章を全面的に支持する。そこで,ここでは医師憲章を紹介し、私の所感を加筆したい。(Medical professionalism projects. Charter on medical professionalism Medical professionalism in the new millennium: a physicians’ charter Lancet 2002 Feb 9;359(9305):520-2.)

医師憲章では、3つの根本原則と10の責務をあげている。
 
<3つの根本原則>

(1)患者の福利の優先:
この原則は患者の利益に奉仕する献身に基づく。利他主義によって、医師患者関係の根幹を成す信頼が構築される。患者の幸福と利益を守ることが何よりも優先するという原則は、市場動向、社会的圧力、経営上の要件からの圧力と決して妥協してはならない。

(2)患者の自律性:
医師は、患者の自律性を尊重する。医師は患者に正直であるべきであり、患者の治療に「インフォームド・ディシジョン」が下せるように、患者を力づけ(エンパワー)しなければならない。治療に関する患者の決定は、それが倫理的慣習にそうものであり、不適切なケアを求めるものでない限りは、最も重要なものとして尊重される。

(3)社会的公正:
医師は、適正な医療資源の配分も含めて、医療システムにおける公平性を追求しなければならない。医師は、医療における、人種、性差、社会経済的地位、民族、宗教、その他あらゆる社会的カテゴリーに基づいた差別を撤廃するために、積極的に働きかけをしなければならない。


<プロフェッショナルとしての10の責任>

(1)プロとしての能力についての責任:
医師は、質の高い医療を提供するために、生涯にわたり学習に励み、医学知識、臨床技術、チーム作りなどの能力・技能を維持しなければならない。さらには、医師の団体は、すべての医師の能力・適正に注視し、また、医師がこの目標を達成できるよう、適切な仕組みを作らなければならない。

(2)患者に対して正直である責任:
医師は、患者が治療に同意する前および治療が始まった後においても、情報を完全にそして正直に伝えなければならない。これは必ずしも全ての細かな決定を患者に委ねることではなく、治療上の方向を意思決定ができるように患者にエンパワーすることを意味する。医師は、患者を傷つける医療過誤が時におきうることを認めなくてはならない。治療の結果患者に被害があった時には、いついかなる時であっても、速やかに患者に伝えられるべきである。そうしなければ、それが患者とのそして社会との信頼関係を著しく傷つけるからである。医療過誤を報告し分析することは、適切な予防策や改善策の土台となり、また、傷ついた相手への適切な補償の基礎となる。

(3)患者の秘密保護の責任:
患者から信用と信頼を得るためには、患者の情報の開示にあたって適切な秘密保護の遂行が求められる。この責務は、患者自身の同意を得ることが困難な時に、患者の代理人との議論にも適用される。電子情報システムが広く使われ、患者の個人情報の収集が容易になり、遺伝情報の入手も容易になったことで、今日、患者の秘密保護は従来にもまして切迫した問題となっている。しかしながら、一般社会のより高い関心があるときには(例えば、患者が他人を傷つける恐れのあるときなど)、秘密保護の責務は時としてこれに譲歩することもあるということを医師は認識しておかなければならない。

(4)患者との適切な関係を維持する責務:
患者は、本来弱いもので、依存的であることを鑑みると、医師と患者の特別な関係は避けられなければならない。特に、性的な誘惑、個人的な金銭上の利益、その他個人の利益を目的に患者を利用してはならない。

(5)医療の質を向上させる義務:
医師および医師団体は医療の質を恒常的に向上させる義務を負う。この責務には、診療能力の維持のみならず、医療過誤を減らし患者の安全を確保するため、医療資源の無駄遣いを最小限にするため、そして、医療行為の結果を最適化するために、他の専門職と協調して働くことも含まれる。また、医師は、医療の質を測るためのより優れた指標を開発し、それを利用することにより、医療の提供に関与している個人、組織、システムを定期的に評価し、医療の質を向上させることに、積極的に関与しなければならない。医師個人も医師団体も双方とも、医療の質の恒常的な向上を促進するための仕組みを作り、その実現を支援する責任を担っている。

(6)ケアへのアクセスを向上させる責務:
すべての医療システムの目的は、均一かつ充分な水準の医療を、常に、どこでも、誰でも利用できるようにすることである。医師は、個人的にも職業団体としても、公平な医療を障害するものを減じるために努力しなければならない。どのようなシステムにおいても、医師は、患者の教育程度、法律上の、経済状態の、地理的条件、社会的差別などによって医療へのアクセスが障害されることを取り除くために努力しなければならない。医療の公平性の責務は、公衆衛生と予防医療を推進することも必然的に伴い、各々の医師や医療者が自分自身の利益とは関係なく社会に向かって唱道(アドボカシー)する責任も伴う。

(7)限られた医療資源の適正配置についての責務:
患者個人のニーズを満たさなければならない一方で、医師は、限られた医療資源の中で、理にかなっている費用対効果の優れた医療を提供することが求められる。また、医師は費用対効果に優れた医療のための指針を開発するために、他の医師や病院、支払者と協力しなければならない。資源の適正な配置に関して、医師は、過剰な検査や処置を慎重に回避する職業的責任をもつ。不必要な医療サービスの提供は、患者が本来避けられる危害や支出にさらすだけでなく、他の患者が利用できる医療資源をも損なうことにもなる。

(8)科学的知識への責務:
医学が社会に委託されていることの多くは、完全に統合された適切なネ学的知識と技術の使用に基づいている。医師は、最新の科学水準を維持し、研究を推進し、新しい知識を作り出し、その知識の適正な使用を確認する義務を負う。医師は、新たな知識の完全な統合の責任を負う。そして、その統合性は、科学的根拠と医師自身の経験に基づいていなければならない。

(9)「利害衝突」に適正に対処し信頼を維持する責務:
医師とその職業団体は、私的な利益や個人的便宜を追及することで、職業的責任を危うくさせる機会に多く遭遇する。それは、特に医療機器企業や保険会社、製薬会社などを含む営利目的企業と、個人的、組織的相互関係を持つにあたって脅威となる。医師は、職務上の行為の過程から生じる利害の衝突を認識し、一般社会に情報公開し、適正に対処する義務を負う。特に、オピニオンリーダーが臨床試験を実施したり報告したりする時、論説や治療ガイドラインを書く時、科学雑誌の編集者となる時などの基準を決めるときには、業界とオピニオンリーダーとの関係は公開されるべきである。

(10)職業的責任への責務:
専門職の一員として、医師は、お互いに協力し合って患者へのケアを最善のものにすること、互いに尊重し合うこと、そして、自己統制の過程に参加することが期待されている。自己統制にはプロとしての基準を満たしていない医師を、矯正したり訓練したりすることも含まれる。また、医師という職業は、現在と将来の医師のために、教育過程と標準化過程を定義し体系化しなければいけない。医師は個人としても集団としても、双方ともこれらの過程に参加する義務を負う。これらの義務とは、内部評価をすることと、職業的実践のすべての面について外部機関からの精査を受け入れることである。


                              (翻訳 露木久美子 監訳 加藤眞三)

投稿者 katos : 2005年07月06日 22:59
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コメント

初めて「患者の生き方」を読ませていただいた時の、ある種の目眩のような衝撃を、思い出します。
その内容と議論には、くっきりとした輪郭がみえ、インパクトがありました。本来、学者さんというものは、新しい提言をする際、(おそらくは何らかのインスピレーションを抱きつつも)世の中の標準的見方、既存の価値観に照準し、これはどのくらいの位置付けであろうかといったいわゆるすり合わせに陥りやすい。(特に日本にあっては)
よくぞ!ここまで大学病院勤務の現場医師が!といった感慨がありました。
さらに、これが駆け出しのあるいは気鋭きどりの学者ではなくトップからの発言であることは新鮮でした。
「時代の風」(維新の風とおっしゃられていますが)というものを感受する眞三さんの目利きで
この3つの根本原理を掲げてくださるのならば、これを旗印にし踏み出されることを大いに期待し支持いたします。この中の患者の自律性、医療の提供の不平等、差別排除の箇所は眞三さんのの基本精神そのものと思います。(そぐわないようでしたらどうぞご削除ください。)

投稿者 みずいさん : 2005年06月28日 15:49

何かに迷うことがあったら、戻ってきて、何回でも分かるまで読もうと思います

投稿者 ニノチカさん : 2005年07月06日 18:11

医師として社会で医療活動を行おうとするとき、それが、このような高い倫理をもったガイドラインに基づいて遂行されていることを、今後、患者さんや社会からしっかりと認知されてゆかなくてはならないと思います。今、一般企業では業績より企業倫理(社会の貢献度、健全性など)の優れた会社に投資家が集まる風潮になっておりますが、医療の世界においても、高い倫理観を遵守し、常に透明性をもって公正に行われることにもうひとつのvalueが生まれるのではないかと思っています。

投稿者 Lindaさん : 2005年07月09日 00:22

このまぶしいばかりの医師憲章が日本でも普く知られることとなり、実現しようという機運が生まれることを念願します。実現するのは、はるか遠くでしょうけど。


yahooで「医師憲章」で検索すると、このサイトがトップに躍り出ました。

投稿者 加藤眞三さん : 2005年07月09日 05:43

トラックバックさせていただきました。全ての医師が読むべきエントリーだと思いました。

投稿者 清宮正人さん : 2005年11月12日 00:25

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