同業のななこ先生が話題にしてくれてそこについたコメントを見ていて思った事。
果たしてイギリス医療の質は高いのか低いのか。
どちらかというとマイナーなことでぶつぶつ文句をいっているようなエントリーが多いので、イメージとしてはイギリスの医療って質が低そう、という感じを受ける方が多いと思うのですが、NHSのお役所的管理の待ち時間や書類操作やシステム的な事etcをここで横に置いておいて
「医者の質」についてだけ注目してみると答えは
「イエス」
医者の質は高いと思います。
比較のため、私のような卒後10年目の整形外科医を例にとってみると
**私(日本)の場合**
卒後整形外科医局に入局
→1年整形外科で下働き(点滴、薬の処方、包帯交換、手術の助手など)
→麻酔科、救命救急に半年づつローテーション
→3年目より外病院とよばれる大学病院以外の小規模、中規模病院の外回り
→6−7年目に大学にもどってきて専門医試験
→その後大学院で研究職
→現在に至る
わけで、3年目よりの大学病院以外の小規模、中規模病院の外回りの時代にはその病院によって指導してくれる先輩の先生によってはとてもいい研修期間を過ごせるものの、そうでないと毎日外来診察で薬の処方やリハビリへの紹介や大学病院への紹介やそういったルーチンの仕事であっというまに数年が過ぎる、という結果になってしまいます。 1〜2年ごとに病院を変わるので指導医の手術の助手をして術前術後管理を主に任されるものの、自分が執刀医になる機会は限られています。私自身を含めて自分が「執刀医」となった大きな手術の症例は少なくて100例〜多くて500例ではないでしょうか(私の場合は200例)。
**イギリスの場合**
卒後
→1年間各科3ヶ月ごとのローテーションで下働き(点滴、薬の処方、包帯交換、手術の助手など)(PRHO)
→2年目~4年目外科系に進むか内科系に進むかそれともGPになるかを決め、外科系(整形外科)に進もうと決めた場合は関連のある外科系で研修医(SHO) (この時点では手術の助手レベル)そしてこの時点で外科または内科専門医試験のようなものを受けたり、必死でworkshopのようなものに参加したりして準備します
→レジストラーになる
整形外科レジストラーになると、整形外科トレーニングをきっちりしっかり受けます 指導医のもと、執刀医として1年間に200例程度の執刀をし、6年トレーニング終了時には約2000例(私の10倍)の症例を執刀している計算になります。また指導医は自分が受け取った手術の基本のすべてをしっかりこの後輩に受け継いで、レジストラーが一人前になるまでかわるがわる面倒をみるのです。
→試験を受け、コンサルタントになる
日本とイギリスの卒後10年目の整形外科医を比較するとイギリスの整形外科医はコンサルトレベルで、すでにすべてコントロールできる権利をもっています。日本では講師レベル、ある程度責任をもって患者さんを治療しているものの、教授、助教授の意見が優先されるレベルでしょう。
いちばん大きな違いは「レジストラー」というこのポジションではないでしょうか。
整形外科医レジストラーには整形外科医になりたいひと全員がなれるわけではありません。多分その競争率は1:10〜1:20くらいでは? 大学時代の成績、試験の合否、ACLSなどを含む技術の習得、AOコースなどを含むworkshopへどれだけ参加しているか、paperをどのくらい書いているか、などなどかなり厳しい審査のあとに限られた人だけが「整形外科医」になれるわけです
いったんレジストラーになると手術症例数が1000単位を越える、というこの優遇は、GPの存在が大きいのです。日本のように外来で毎日のように診断、処方、包帯交換、術後のフォローをする必要はありません。例をあげれば股関節手術が必要と判断された患者さんの合併症の管理(血圧やそのほか内科的疾患)はGPがすべて内科への紹介なども含め管理してくれるうえに、術後退院した患者さんのフォローはGPがやってくれるので退院後6ヶ月と3ヶ月に専門医外来があるだけです。
ちょっとだらだらと書いてしまいましたが、つまり、イギリスでは専門医/GPとしっかり役割分担が決まっているので、必然的に専門医の質が高くなっています。日本では整形外科医、といってもGPのような仕事をしていることが多くないですか? 気がつくと、「整形外科医看板のなんでも屋」になってしまった自分。それはレジストラーという整形外科医という専門医を育てるシステムが日本に欠けているからだと思うのです。
多くの先輩たちが10年目くらいを過ぎると「整形外科GP」のような「開業」をしてしまうのもそのせいではないかと思うのです。この「開業」のシステム。XX先生が開業するから医局をやめるって、ときくたびにXX先生があれだけ手術がうまかったのに、と残念な気持ちになったことを思い出します。開業して、おおきな手術をこなしていくひとはかなり少ないでしょう? 無駄が多いと思いませんか?
こちらのコンサルタントは手術のうまい、下手は「症例数」だとずばり、言い切っています。そうだとすると、整形外科医の質について話すならば役割分担がきちんと決まっていない日本の混沌としたシステムではイギリスの医者の質に追いついていないのではないかと思うのです。
イギリスのほうではこうやって「整形外科医」の数を無鉄砲に増やさないので専門医に見てもらうまでの待ち時間が長いのですが、いったんそこまでたどり着けば「質」は保証されています。日本では外来にいって「整形外科医」に見てもらったとしてもどのくらいの経験のある医者にみてもらったのか、よくわかりませんよね。
長くなりそうなので続きはまた次回。